振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

「図書館総合展2017フォーラムin安城」に参加する

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 2017年9月23日(土)、愛知県安城市のアンフォーレ安城市図書情報館)で開催された「図書館総合展2017フォーラムin安城」に参加した。6月1日に開館してから4か月弱で20回ほど訪れた図書館であり、全国の図書館関係者に地元の図書館のことを知ってもらえてうれしい。安城市図書館の歴史や基本情報については「安城市図書情報館 - Wikipedia」などもご覧ください。荒俣宏さんの基調講演やパネルディスカッションなどはアンフォーレ本館1階のホール(255席)で行われ、その他に1階のロビーで協賛企業のブース展示があった。

 

安城市の図書館の歴史

 Wikipedia記事にも書かれているように、安城市図書館には偉大な「前史」がある。講演中には荒俣さんも口にしたように、1931年には山崎延吉が主導して安城町農会が「安城農業図書館」を設立した。「自治体農会が運営する図書館は全国的に見て珍しく、『農業図書館』の名を掲げたものは他に例がなかった」(『安城図書館誌』)。

 農業図書館の蔵書が譲渡されて安城町立図書館が開館したのは1949年。1967年には安城公園北西角に移転、1985年には城南町に移転し、32年後の2017年6月1日にJR安城駅前に新館が開館した。

 

 

図書館総合展2017フォーラムin安城

13時からは作家・博物学者の荒俣宏さんによる[第1部]基調講演「つながる読書──読書は自然に類を呼ぶ」白川静の『字通』に始まり、日本と中国の読書の歴史を比較し、安城市の図書館の歴史にも触れた。ホールの入口には展示屋台が置かれ、安城市図書館にある荒俣さんの著作と荒俣さんのサイン入り色紙が飾られていた。脇の多目的室では「学生協働フェスタin東海」を併催。私はこの部屋に入らない方がよかったと思いつつも、東海地域の大学図書館サポーターの存在を知ることができたのは有意義だった。

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(左)荒俣さんの著作が飾られた展示屋台。(右)「学生協働フェスタin東海」。

 

14:40からは[第2部]プレゼンテーション「図書館業界の最新情報」。協賛10社が5分間で自社のサービスなどをPRする時間。後半の6社のPRを聞いたが、図書館界の人間じゃない者にとっても興味深い話が多かった。

内田洋行・・・愛知県では稲沢市図書館、東海市立図書館、日進市立図書館、岡崎市立図書館、知多市立中央図書館、尾張旭市立図書館、一宮市立図書館などが内田洋行のIT図書館システム(ICタグなど)を導入しているらしい。公式サイトの「導入事例」ではたくさんの図書館が紹介されていて書ききれない。一宮市は2013年1月の中央図書館開館前、2012年10月の業務委託開始時に導入したとある。

岡村製作所・・・家具メーカー。2018年4月に社名を「オカムラ」に変更するらしい。図書館では300館以上に什器を、ぎふメディアコスモスの耐火コンクリート製書架は岡村製作所製らしい。昨年の図書館総合展の際に見学した大和市文化創造拠点シリウス、ゆいの森あらかわも。ゆいの森あらかわにはいつか行きたい。

アカデミック・リソース・ガイド・・・岡崎さんがプレゼン。岡本真さんは「1800館以上(の図書館)を回った」という。各地で撮影した図書館の建物や館内の写真はFlickrにアップロードされている。岡本さんの活動を真似したのがロバの自由研究「図書館での写真撮影の許可状況」で、私がFlickrではなくWikimedia Commonsに上げた図書館の写真はざっと2000枚弱(外観300-400枚くらい?、館内1570枚)になった。アンフォーレの建物や本館1階内部の写真はこちら安城市図書情報館の館内の写真はこちら

図書館流通センター・・・ADEACの説明。安城市図書情報館でもADEACを採用しており、古地図や戦前の雑誌、『安城町勢要覧』などが閲覧できる。利用規定には「無断転載・再配布を禁止」と書いてあるけれど、この規定を守る必要はあるのだろうか。「『産業の安城』には安城市図書館の前身である安城農業図書館も描かれている」という話があった。この絵図はWikipediaの「安城市図書情報館」にも掲載したい。

朝日新聞社・・・主に聞蔵の説明。安城市図書情報館の3階にはデータベース専用の固定パソコンが8台(?)あり、たまに各社の新聞データベースを使わせてもらうが、印刷ができないのがネックなので新聞データベースを使いたい時は岡崎市立中央図書館に行くことが多い。データベース席に座りながら自分のノートパソコンに打ち込む、ということをしたこともあったけれど、安城のデータベース専用パソコン席はカウンターの目の前なので「(あの人何やってるのかしら)」という声がカウンターから聞こえてきたことがあった。

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(図)図書館流通センターのADEACの説明で紹介された俯瞰図『産業の安城』(1940年)。中央右に安城駅。中央左の「圖書館」は私立の安城農業図書館のこと。

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(写真)第2部の際の会場。トリの朝日新聞社のPR中。

 

16時からは神谷安城市長、荒俣さん、設計者である三上建築事務所の益子さんの3人による[第3部]パネル討論「まちづくりと図書館」。印象に残っているコメントは「開架率は70%」「設計コンペでは女子職員の意見が決め手(となって三上建築事務所に決めた)」「NDC分類を崩したのは図書館職員の意見」「特徴的な『でん』の名称は設計段階で三上建築事務所が命名」「安城市図書情報館には日本で考えられるICT関連設備が一通り入っている」など。

 公式サイトによると、三上建築事務所はアンフォーレのほかに豊後高田市立図書館、東海村立図書館、潮来市立図書館、置戸町生涯学習情報センター、結城市民情報センター、十王町立図書館、下館市立図書館、守谷中央図書館などを手掛けている。Wikipediaにはまだ記事がないらしい。

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(写真)パネル討論の様子。

 

 17時30分からは館内の見学会に参加。よくフロアでみかける男性職員のKさんからは(この図書館には何度となく来ているので)「見学会など参加しなくてもいいでしょ(笑)」といわれたが、「利用者のいない館内」や「受付」などはこんな時でないと堂々と撮影できないのです。

 説明で印象に残っているのは、「飲食は全面的に可能だが図書の汚損は1件もない」「ごみ箱は設置していないが現時点で問題はない」「新規登録の30%は安城市外」「94%が自動貸出機を利用」「平日3,000人、休日5,000-6,000人、大イベントでは10,000人「23,000冊の開架書庫を設置したことでカウンター2人以外はフロアに出られるように」「スマホの充電もOKだがゲームだけはだめ」「正規職員20人、臨時職員74人、臨時職員は週3、週5、夜勤務の3パターン、正規職員のほうが年数が短い傾向」など。

 18時30分からはレセプションに参加する予定だったが、40代以上のスーツ男性率の高さにひるんだので早々に帰った(※参加費は払いました)。

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(左)3階の受付。(右)4階の受付。

 

 アンフォーレが開館してすぐだったか、安城市域に存在した映画館「桜映画劇場」の正確な場所について知りたくてメールレファレンスを行ったことがある。1929年に開館して1964年に閉館した映画館。1964年以前の『全国映画館総覧』では存在が確認できるものの、安城市図書情報館や愛知県図書館にある文献ではいっさい情報を見つけることができずお手上げだった。閉館時は安城市ではなかったため住宅地図にも掲載されていない。

 現地に行って古いタバコ屋にでも飛び込み、長年住んでいるような年配の方に話を聞きでもしないと答えが得られないと思っていたが、レファレンスを対応してくれた前述のKさんは「安城市歴史博物や地元の井公民また町内会長」をあたった上で、蔵書にはなりえない灰色文献の存在を提示してくれた。クイックなレファレンスではない、恐ろしく時間がかかりそうなレファレンスに対して、(明快な答えではなかったものの)回答を出してくれた。

 今回のイベントで初めて安城市図書情報館を訪れた方が高評価するのは当然。安城市長の神谷さんも荒俣さんも、開館後の2年目、3年目が大事ということを口にした。図書館は職員が作るもの。私はこの図書館に優れた職員がいることを知っている。