振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

WikipediaLIB@信州に参加する(2)イベント当日

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みんなの一体感とか表情がすごくいいので再掲載。

 

3月19日は京都・大原にて「ウィキペディアタウン大原」に参加。「もっと大原里山研究所」が主催、是住さんらのししょまろはんが協力、東京から始発で来たというくさかさんが講師でした。くさかさんとは400km離れた長野でも顔を合わせることになります。

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長野に向かう

くさかさんは東京の自宅に帰って翌朝の新幹線に乗ったそうですが、私はその日のうちに長野に入る。定番の東海道新幹線&特急しなの(名古屋経由)では芸がないため、特急サンダーバード&北陸新幹線(金沢経由)というルートを選びました。交通費や所要時間はほぼ同等であり、大原を出る時間によっては名古屋経由に切り替えることも検討していました。

長野到着時には翌日に発表するスライドが1枚もできていない状態。20日のWikipediaLIB@信州当日は朝早く起き、スライドと発表のための原稿を準備して県立長野図書館に向かいます。9時に到着したらもう宮澤さんがおり、小澤さん・篠田さん・槌賀さんが最終準備をしています。宮澤くんに挨拶する気持ちの余裕もなかったのですが(ごめんねー)、どこかでお会いしたことのある方が何人かおり、Facebookで名前や顔を見かけたことのある方も多かったので落ち着きました。

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ウィキペディアとは何か」

 司会は小澤さん。館長に続いて篠田さんが本日のイベントの趣旨を説明します。アーバンデータチャレンジ、1月の高遠ぶらりに続いてこの手のイベントが3回目だという篠田さんは、「何を書いていいかわからない」ということを強調されていました。ウィキペディアを始めて編集する方から何度か聞いたことのあるコメントですが、編集に慣れすぎているウィキペディアンはこのことになかなか気付かない。調べる楽しさのあるイベント、立場の違いに関係なく考えるプロセスや考える機会を提供するイベントという言葉もありました。

 

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 10時20分からは槌賀さんが担当の書庫ツアー。実は昨年8月に県立長野図書館を訪れた際に、今回のイベントにも参加されていた北原さんに館内ツアーをしてもらっています。もちろんアポなしの訪問で、館内の写真を撮りたいという怪しいお願いをしたところ、書庫も含めた館内を説明してくれたのでした。

 書庫ツアー後にはらっこさんによる「ウィキペディアとは何か」。3月6日にも尾道でらっこさんの説明を聞いていますが、司書が多い今回の参加者層に合わせてグレードアップさせた印象です。スライドに何回も表示していた短縮URLはホワイトボードへのメモでもよかった気が。

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ウィキペディアと図書館をつなぐ」

 11時25分からは宮澤さんの「ウィキペディアと図書館をつなぐ」。私にとっては宮澤さんの発表がこの日のハイライトでした。小学生の調べ学習から入り、なぜウィキペディアを使うのかということ、レファレンスとウィキペディアの関わりについて説明します。宮澤さんは是住さんや藤井さんとはまた違った視点でウィキペディアを見ています。

 私が図書館の記事に手を出し始めた時には、図書館が社会教育施設であるという当たり前の知識がなく、図書館にある379の棚で文献を探すことを思いつきませんでした。郷土写真集に古い図書館の写真が載っていることにも気づかなかった。自力で一通り文献を探してみたものの思うように文献が集まらなかった時に、いつもヒントをくれるのは愛知県図書館の司書さんです。文献はできる限り自力で探したいと思っていますが、より充実した記事にしたいとき、未知の分野に手を出すときなどにはレファレンスを行っています。

「伊勢春慶」という記事があります。昨年9月のウィキペディアタウンin伊勢で執筆対象となった記事です。私はこのイベントには参加しなかったのですが、図書館総合展で岡野先生に挨拶したことでこの記事に興味を持ち、ネットで検索したり、伊勢春慶デザイン工房や桑名市立図書館を訪れて文献を探しました。デザイン工房では文献がほとんどないという話を聞き、自分で調べても確かに文献が少ないことがわかりました。最後に三重県立図書館の地域資料コーナーに行ってレファレンスを行うと、対応してくださった司書さんは私の話を聞く前から伊勢春慶の文献の少なさを知っており、PCで検索もせずに書棚に向かうと、私が気付かなかった文献をいくつか引っぱり出してくださったのでした。司書に頼ることを学びました。

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ウィキペディアに記事を書くこと」

  らっこさん・宮澤さん・諸田さんとは違い、私は人前で話し慣れていません。「ウィキペディアとは何か」や「ウィキペディアの編集方法」についての最低限の説明はできますが、平賀さんから与えられたお題は「ウィキペディアに図書館記事を書く」です。

今回のイベントは「図書館」という明確なテーマを持っており、司書の参加が多いことが想定されました。日ごろから司書の業務とウィキペディアの執筆の共通点を感じており、また一般的な司書の能力の高さからしても、話すことがあるのだろうかという不安を感じていました。2月中旬には練っていないスライドを作成していたものの、話す内容が固まらないまま時間が過ぎ、長野入りした午前3時から本番用のスライドを作ったのでした。なお、発表用の原稿はA4 5枚分のうち1枚分話し忘れた。スライドに入れなかった部分なので違和感がなかったのかも。下にリンク先を示した発表用原稿には入っています。

www.slideshare.net

2017年3月20日 「WikipediaLIB@信州」県立長野図書館... - Cantabrio Asturio | Facebook

 

編集ワークショップ

役目が終わって気持ちが軽くなってたので諸田さんの説明はほとんど聞いてませんでしたー。

 午後の編集ワークショップは2時間20分ですが、主催者によって【方針・準備】【調査】【構成】【執筆】に4分割されています。ワークショップでやるべき内容を理解しているからこその4分割だと感じました。一方でくさかさんやらっこさんがプログラム作成を担当する場合は、参加者の自主性に任せるべく、わざわざ分割しないのではないかと思います。

 私はふだん、ウィキペディアタウンでは必ずどこかのグループに入って作業を行います。今回は悲しいことにグループに入れてもらえなかったので、会場内を徘徊して写真を撮りつつ、何か聞かれたらそれに答えて、また写真を撮りながら会場内を徘徊していました。ウィキペディアタウンの講師として場数を踏んでいるくさかさんやらっこさんは、参加者が何か疑問を投げかけてくるまで待つ、というのがうまい。こちらからあれこれ教えてしまってはいけないイベントだということがわかってきました。

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発表・講評・意見交換

 5班 下條村立図書館 - Wikipedia(新規)

「奇跡の村」下條村には「サンモリーユ下條」という施設があり、愛知県刈谷市在住・在勤・在学者と下條村在住者しか宿泊できないという決まりがあります。私は刈谷市民、宮澤さんは下條村民です。下條村立図書館を担当した5班は全員が図書館関係者。2種類の統計によって蔵書数や貸出数が異なっているという問題を、両方の数値を示すこと、ただしインフォボックス内にはより信頼性の高い(?)ほうを示すことでクリアしています。これが最適な方法なのかどうかはわかりませんが、6人が一緒に頭を悩ませたようです。

このグループは編集競合を避けるためにGoogleドキュメントを使用していました。文章がリアルタイムで更新されていきます。良いアイデア信濃毎日新聞の記事を出典として使用しているのも嬉しいです。出典=書籍というイメージを持ってしまいがちですが、地域の話題を書くときには地方紙が頼りになり、データベースを利用できる図書館で開催した甲斐がありました。

翌日にはMiyuki Meinakaさんというウィキペディアンが内容を加筆していることに気づかれたでしょうか。履歴表示画面から差分を見ると、ベテランのウィキペディアンがどのような文章を追加し、どのような修正を行ったのかがよくわかります。Miyukiさんは「指宿市立図書館」や「川上村文化センター図書館」などを書かれた方です。

 

6班 県立長野図書館 - Wikipedia(加筆)

この図書館で開催されるからには、県立長野図書館という記事の加筆は必須でした。6班は参加者の属性がいちばん多様だったグループかも。今回のイベントに講師として参加したウィキペディアンは私・らっこさん・くさかさんの3人ですが、実はこのグループには4人目のウィキペディアンが紛れ込んでいました。

イベント中に部屋から出るのには勇気がいりますが、このグループはイベント中に館長室の写真を撮ってきて記事に使用しています。私が「歴史的な記述が貧弱」と言ったせいか、信濃図書館時代、旧館時代、現行館時代の歴史がバランスよく書かれており、『保科百助の揮毫』という興味深い写真も掲載されています。書庫には県立の魯桃桜それ自体について書かれた文献もあるようです。開花時の写真は4月になったら平賀さんが追加してくれるのでしょうか。

 

2班 市立小諸図書館 - Wikipedia(新規のはずだったが加筆)

長野県有数の歴史を持つ市立小諸図書館を担当したのは2班。新規作成を行うはずでしたが、イベント前日に記事が作成されていました。とはいえ加筆の余地が十分にあったため、2班にはそのままこの記事を担当してもらいました。このグループはとても堅実な加筆を行っています。出典がまったくなかった記事に出典を追加し、沿革や特色に関する文章も追加しています。

「県内第一号(の図書館)」という言葉が追加されました。出典のことばを独自に解釈して「長野県最古」などという言葉に置き換えてしまいがち(「最古」はとてもあやふやな言葉)ですが、文献の記述通りの言葉を使ったようです。自治体広報誌も引っぱりだしたとか。このブログ冒頭部の写真は2班ですが、加筆度合い以上の達成感があったようです。 

 

7班 松本市図書館 - Wikipedia(加筆)

 1月には松本市中央図書館を訪れました。カウンターではいつも通り写真撮影の可否を尋ねたところ、カウンター近くにいた年配の男性職員が「撮影していいに決まっている」という反応をしていたのが印象的でした。撮影の可否を訪ねて館長や副館長クラスに持ち込まれてしまう場合、良い結果が得られないことも多いです。あの方は誰だったのでしょう。

7班が担当した松本市図書館はインフォボックスすらなく、県内有数の歴史を持つのに開館年しかわからなかった記事。インフォボックスには地図も加えていただきました。文章部分ではイベント中に長い歴史に関して加筆されたほか、イベント翌日にも参加者によって特殊文庫の記述が加えられています。

 

1班 諏訪市図書館 - Wikipedia(新規)

意外にも記事がなかった諏訪市図書館。諏訪市図書館本館のほかに専門図書館諏訪市立信州風樹文庫があるということで、1班は節構成について悩んだのではないかと思います。まずは作成したインフォボックスや文章のみを投稿し、その後出典を加えていったようです。リンクがないこと、名称の誤り、地図や座標がないことなどに一つ一つ気づいて修正していった過程がよくわかります。

 

3班 中野市立図書館 - Wikipedia(新規)

新規立項の6分後に即時削除依頼を出されるという、ちょっとした混乱があったグループです。結果的には削除されることもなく、編集に対して即座に反応があるというウィキペディアの特徴がわかる例として受け取ってもらいたいです。図書館プロジェクトテンプレートを使用して内容の更新を進めていったグループで、履歴には編集プロセスがわかりやすい形で残っています。

 編集中に外部から介入されると厄介なため、一般的なウィキペディアタウンには“不慣れな編集があったり、一時的に編集回数が増加したりしますが、何とぞご容赦願います。”などという文章をノートに記す「おまじない」をすることが多い。今回講師となった3人のウィキペディアン全員が忘れていたのか、それとも「おまじない」の必要性まで主催者に気付いてほしかったのでしょうか。

 

4班 辰野町立図書館 - Wikipedia(新規)

辰野町立図書館は2館からなる点で諏訪市図書館と似ていますが、4班は1班とは異なり、「沿革」という大節の中に2館をまとめる方法を取りました。2館とも歴史ある図書館。出典のひとつに1928年の『小野村誌』を使っているほかに、著作権面の問題がないことをはっきりさせたうえで、県立長野図書館が所蔵していた小野図書館の古い写真も掲載しています。この写真が撮影された時期についての説明がないため、どなたか説明を補ってください。

 

8班 小布施町立図書館まちとしょテラソ - Wikipedia(加筆)

昨年8月に訪れた図書館です。まちづくりと図書館を絡めた例として知名度の高い図書館であり、愛知に戻ってから加筆を試みましたが、文献の少なさから断念していた館です。手を加えていただきありがとうございました。訪問時に撮った館内の写真をCategory:Machi tosho terrasow - Wikimedia Commonsに上げており、今回の加筆時には何枚か使用していただきました。

目立つ新館があると忘れられがちなのが新館以前の歴史。人口1万人の自治体なのに1923年/1951年から図書館があるとは知りませんでした。後日加筆された「習わし」についての一文は興味深いです。まったく触れられていなかった建築についての文章も加筆されました。やりたいことに作業が追い付かないという言葉があり、「おぶせまちじゅう図書館」などまちづくりとの関わりが加筆されることも期待しています。

トップ画像は写真家の大井川茂さんによる写真。前館長の花井裕一郎さん本人が投稿しているように見えます。ライセンスはこのままで大丈夫なのかという心配はありますが、私が撮影した写真とは比較にならない抜群の存在感を放っています。

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 くさかさんのありがたい講評時には、書いた経験が読み手の気持ちを成長させるという言葉がありました。最善を尽くしたうえでまず書いてみるということが大事とも。ありがたい。

 

 2016年に図書館記事を書き始めたのは、「ウィキペディア/ウィキペディアタウンに興味を持つ図書館員が増えれば」「ウィキペディアを書く図書館員が増えれば」という気持ちからでした。藤井さんや宮澤さんはもうすっかりウィキペディアを自分のモノにしており、それもこちらの想定を超えた踏み込み方をしているように見えます。

講師陣があれこれ出した意見を、小澤さん・篠田さん・槌賀さんの3人がうまくまとめてくださいました。らっこ→宮澤→かんた→諸田と4人のゲストがうまくバトンをつなげたのは練りこんだプログラムのおかげでした。

昨夏に「図書館をテーマとするウィキペディアタウン」の構想を聞いた時には現実的ではないと思って笑っていましたが、平賀さんはほんとうにこのイベントを開催し、講師として呼んでくださいました。イベントの主役は参加者。次につながらなければ意味がないというイベントでした。私が役目を果たせたかどうかは怪しいですが、次回も呼んでもらえたらより洗練された発表をしたいと思います。

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・懇親会で撮った写真はたいていぶれているのに、小澤さんが某氏にセクハラされてる写真だけはぶれてなかった。