振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

Wikipedia ARTS 京都国立近代美術館

5月22日(日)、京都市京都国立近代美術館京都府立図書館で開催された「Wikipedia ARTS 京都国立近代美術館 コレクションとキュレーション」に参加した。ギャラリートーク配信サイト「Curators TV」などを運営しているARTLOGUEが主催する4回目のWikipedia ARTSであり、オープンデータ京都実践会が協力している。

 

 

「still moving – on the terrace」

この日のイベントのメインは京都国立近代美術館で開催中の「オーダーメイド:それぞれの展覧会」であるが、京都市立芸術大学のギャラリー「@KCUA」(アクア)で開催中の展覧会の説明も予定されていた。京都駅からは岡崎にある近代美術館に直行せず、堀川御池にある「@KCUA」を見学する。「still moving – on the terrace」という展覧会は以下のように説明されている。

 

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京都芸大の移転のコンセプトでもあるOn the terrace 的活動の精神を見ていただこうと考えた。その結果、会場である@KCUAというギャラリー内の施設を誤用しもう一つの@KCUAを感じとってもらおうと考え各所に新たな用途を振り分けました。どんな誤用かは見てのお楽しみ。--(展覧会ステイトメント)

 

会場構成を担当する長坂常(スキーマ建築計画)から各メンバーに割り振られた京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA内のさまざまなエリアにて、その場を「誤用」していきます。これは@KCUAの空間を利用した「実験」であり、各メンバーの作品を展示するといった、いわゆる普通の「展覧会」ではありません。また担当箇所はあるものの、ミーティングを重ね、意見を交換しながら構想を練ってきたことから、誰にどの場所が割り振られているかということは敢えて明示しませんでした。--(公式パンフレット)

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展示会場の表側と裏側が逆転させられており、バックヤードに展示物が置かれている。階段や非常口もアートスペースとして使用したようだ。ギャラリー内はがらんとしており、数点の作品が所在なさげに設置されている。鑑賞者が作品内に入り込める大型の作品もある。作品の横に説明書きはない。

 

1980年、京都市立芸術大学は洛西ニュータウンに近い丘の上、交通アクセスは悪いが緑豊かな丘の上に移転した。移転から30年を経た2020年以降、京都駅に近いが非差別問題で有名な崇仁地区に移転するらしい。この展覧会の「誤用」や「バックヤード」は崇仁地区を意味しているのだろうか。でないとしたら、展示スペースを「誤用」することにどんな意味を持たせているのか、キュレーターが「誤用はアートだ」と思っただけなのか、よくわからなかった。「@KCUA」から京都国立近代美術館に向かう際には、鴨川沿いで下御霊神社の神輿巡幸(還幸祭)に遭遇する。

 

 

「オーダーメイド:それぞれの展覧会」

13時には京都国立近代美術館1階にある講堂でイベントが始まる。まずはゲストの高橋悟さん(京都市立芸術大学教授)と牧口千夏さん(京都国立近代美術館主任研究員)による展覧会の解説。高橋さんのスライドにはウィキペディア記事「モンマスペディア」のスクリーンショットが差し込まれていた。3月に新規作成したばかりの記事が思わぬところで活用されていてうれしい。

 

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(画像:イベントの説明を行う青木さん)

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 (画像:記事「モンマスペディア」を映す高橋さん)

 

14時頃からは牧口さんの説明を聞きながら展示会場を回る。「京都」の「5月」の「晴天」の「日曜日」かつ「オーダーメイド」展の最終日だったが、それほど多くの客はいない。さすがに30分は短い。広い会場を足早に回ると、もう予定の30分が過ぎてしまった。事前に鑑賞していてよかった。

 

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 (画像:学芸員の牧口さんとともに展示会場を回る)

 

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(画像:多くの展示物は写真撮影可能)

 

 

Wikipedia ARTS 京都国立近代美術館

京都府立図書館と京都国立近代美術館は隣接している。京都府立図書館3階の会議室に舞台を移し、14:30からウィキペディアの編集作業が始まる。3-4人ずつ4つのグループに分かれ、それぞれ題材とする1-2記事を選ぶ。今回はすべてのグループが既存記事の加筆を選んでおり、是住さんが事前に準備してくださった資料を使って執筆を行う。

 

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 (画像:京都府立図書館会議室での執筆作業)

 

 

私が入ったC班は「澤田知子」を担当した。イベント前時点の記事「澤田知子」には箇条書きの略歴が書かれており、著作が並べられ、関連項目がたくさん並んでいる。出典はなく、芸術家としての特徴もわからない。

 

(是住さんの文章を引用すると)この日には「美術館の展示は作品相互の関係性を重視して構成しているのに、作家ごとのウィキペディアの記事を書くだけではそれが切り離されてしまうので一緒にやる意味が見出せない」「既存ページにアートを潜り込ませる、リンク付ける」をいうテーマがあった。テーマがあると文章が書きやすくなる。

 

澤田知子」について書かれた文献が数点あった。略歴はすでに書かれているため、同じグループの3人には芸術家としての興味深いエピソードの執筆を担当してもらい、私は略歴に出典を付けることを試みる。さらに、すでに出身地や卒業大学などの土台は書かれているため、影響を受けた/指導を受けた芸術家を掲載し、写真賞受賞時のエピソードを加える。

 

芸術家の記事は骨格(出身地、出身校、受賞歴)と装飾物(さまざまなエピソード)のバランスが難しい。イベント前の記事「澤田知子」は骨格しかなかったため、出典で骨格を強化しつつ、対象への理解を深められるエピソードを追加する編集を行った。「既存ページにアートを潜り込ませる、リンク付ける」というテーマにしたがって、記事「見合い」に「澤田知子」についての一文を書き足す。出身校である「松蔭中学校・高等学校 (兵庫県)」の出身者節に「澤田知子」を追加する。

 

執筆時間は14:30から16:30までの2時間。ただしその中で対象記事の選定や役割分担を行う必要があった。対象について理解し、想像を膨らませ、文献を見つけ、文献を解釈して執筆するには時間が足りないと感じた。初参加者が1-2行を書き込む体験はできた。講師の牧口さんと高橋さん(執筆作業には参加していない)にも突っ込んだ感想を聞いてみたかった。

 

今回のイベントでは「笠原恵実子」、「澤田知子」(写真)、「長谷川潔」などが対象となった。「Trigonometry (笠原恵実子)」が新規作成され、「ハンナ・ヘッヒ」にInfoboxが付いた。16:30から16:45くらいまで成果発表を行い、京都府立図書館が閉館する17:00には退館。17:00からは三条木屋町で懇親会に参加してから愛知まで帰ってきた。

 

 

感想

今回のイベントはウィキペディアとアートを絡めたものである。「既存ページにアートを潜り込ませる」というテーマはやり方次第でウィキペディアの方針と対立してしまうが、「リンク付ける」というのは疎かにされがちながら重要なテーマだと思う。今回のゲストである高橋さんと牧口さんのような自由な発想はもっと取り込みたい。

 

今回京都国立近代美術館で鑑賞した「オーダーメイド:それぞれの展覧会」は、キュレーションが大きなテーマとなっている。鑑賞者はキュレーターが展示に込めた思いを想像しながら会場を回る。執筆した記事は芸術家の個別記事ばかりだったが、欲を言えば「オーダーメイド」という展覧会自体を個別記事にするべきだったかもしれない。

 

 

京都でのウィキペディアタウンイベントにはウィキペディアの編集未経験者も多いため、目標をどこに設定するかが難しい。ウィキペディア街道はイベントごとの対象記事が2-3記事と少なく、かつウィキペディアの執筆経験者が多いので、5,000-10,000バイトのしっかりした記事となることが多い。執筆する分野を絞り込んでいるので、前回のイベントで執筆した項目がそのまま見本にできる。

 

京都では3-4人ごとにグループを分けるので、イベントごとに5-6記事が作成される。新規作成する記事は2,000-5,000バイトになることが多いが、800バイト(淀小橋)の時もあった。同じグループに含まれる参加者の執筆経験によって、イベント終了時の成果は大きく変動する。そこが京都のイベントでの魅力でもある。