振り返ればロバがいる

Wikipediaの利用者であるAsturio Cantabrioによるブログです。「かんた」「ロバの人」などとも呼ばれます。愛知県在住。東京ウィキメディアン会所属。ウィキペディアタウンの参加記録、図書館の訪問記録、映画館跡地の探索記録などが中心です。文章・写真ともに注記がない限りはクリエイティブ・コモンズ ライセンス(CC BY-SA 4.0)で提供しています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。

「信州・酒ペディア in 上諏訪」に参加する

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(写真)紅葉がきれいな諏訪市図書館

www.library.pref.nagano.jp

 

2018年10月28日(土)、全国発酵食品サミット in NAGANOプレイベントの「信州・酒ペディア in 上諏訪」に参加した。主催は県立長野図書館、しかし諏訪市図書館が共催で会場は諏訪市図書館の視聴覚室だった。諏訪市図書館の館長や職員、諏訪市内の学校の教員、長野県醸造試験場の方、長野県内の公共/大学図書館の方など、約20人が参加した。

 

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(左)会場の諏訪市図書館視聴覚室。(右)宮坂醸造社長の宮坂直孝さん。

 

1. スケジュール

09:30-10:30 「記事を書くことの楽しさ」

       説明 : かんた

10:00-10:30 「宮坂醸造の酒づくりとまちづくり」

       説明 : 宮坂直孝さん(宮坂醸造社長)

10:30-12:30 諏訪五蔵周辺のまちあるき

       ガイド : サカマユウジさん

12:30-13:30 丸高蔵 みそ茶屋千の水で昼食

13:30-16:20 ウィキペディア編集

16:20-16:50 成果発表・講評

 

 スケジュールは各地のウィキペディアタウンと似たような感じ。午前中には諏訪市図書館の視聴覚室でウィキペディア諏訪市における醸造業の説明を聞き、その後諏訪市のマイクロバスで諏訪五蔵周辺まで移動して、自由に蔵元の見学を行った。温泉が湧き出る地区でサカマユウジさんの解説を聞き、マイクロバスで昼食場所の丸高蔵へ。食事を終えた人から徒歩で諏訪市図書館に戻った。2時間30分弱がウィキペディアの編集時間。4グループに分かれて計7記事の編集を行い、2記事が新規作成され、既存の5記事が加筆された。

 

2. イベントのふりかえり

 宮坂直孝さんの話はひとことも聞き漏らせない面白い話だった。イベント前に朝日新聞信濃毎日新聞の記事データベースで「宮坂醸造」「諏訪五蔵」などと検索したら大量の記事が出てくる。諏訪市にある5つの酒蔵の緩やかな組織「諏訪五蔵」では、1998年から年2回の呑みあるきイベント「上諏訪街道 呑みあるき」を実施しており、各回に約2000人もの人が参加する。

 「諏訪五蔵」の仕掛人宮坂直孝さんらしく、宮坂醸造他の日本酒メーカーに先駆けて海外進出を行っているのも宮坂直孝さんの代からだという。特に日本酒をめぐる昨今の話題など、話の内容はそのまま文章化できるくらい密度が濃かった。「狭い範囲に酒蔵が5軒も集まっているのは全国的に見て珍しい」という諏訪五蔵の説明はこちらから

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(写真)図書館から諏訪五蔵までの移動はマイクロバス。さすが観光地の自治体。

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(写真)宮坂醸造の蔵元ショップ「セラ真澄」。

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(左)「横笛」の伊東酒造。(中)舞姫。(右)麗人酒造。

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(写真)見学中の参加者。諏訪五蔵周辺はすごい交通量。

 

 酒蔵の見学後にはサカマユウジさんのガイドを聞きながら小和田地区を歩いた。私は日本酒はもちろんアルコール類全般がダメなので、酒蔵の自由見学よりもサカマさんの説明のほうが興味深く、資料などをもらってもう少し深く知りたいと思った。

 小和田地区は澄んだ井戸水が必要な諏訪五蔵からすぐの場所にありながら温泉が湧き出ている場所であり、民家の軒先には温かい水が出る蛇口がいくつもある。掘る深さによって澄んだ水が出たり温泉がでたりするそうで、Google mapでは名前も確認できない小河川「角間川」が重要な役割を果たしているらしい。

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(左)民家の軒先にある温泉の蛇口。硫黄のにおい。(右)地形の解説を行うサカマユウジさん。

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(写真)霧ヶ峰から流れる角間川。

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(写真)宮坂醸造と同系列の丸高蔵が昼食場所。味噌・醤油・漬物と発酵食品ばかり。

 

 昼食を食べてから諏訪市図書館に戻り、まずは県立長野図書館の小澤さんによるウィキペディアタウンの説明。毎度のことながら小澤さんの説明は見事だと思う。ウィキペディアタウンを開催する意義や目的について、自分の言葉でわかりやすく参加者に伝えている。

 他地域のウィキペディアタウンで主催者が同じことやってるだろうか。小澤さんと同じだけイベントの意義や目的を理解していても、主催側の図書館員でここまで説明してる方を見たことがない。他地域ではウィキペディアの説明役の講師を “立てる” ために図書館員が一歩引いてるのだろうけど、主催者が説明してほしいのです。

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 (写真)ウィキペディアタウンについて説明する小澤さん。

 

3. 今回の編集対象記事

新規作成・・・麗人酒造、本金酒造

加筆・・・・・宮坂醸造、伊東酒造、舞姫 (酒造メーカー)、協会系酵母諏訪市

 

午後には塩尻から、アーバンデータチャレンジ参加組の助っ人が3人やってきた。参加者を4-5人ずつ4グループに分け、「麗人酒造と本金酒造の新規作成」、「宮坂醸造と伊東酒造と舞姫の加筆」、「協会系酵母の加筆」、「諏訪市(特に醸造業)の加筆」に取り組んだ。ちょっと記事数が多いように感じる。「宮坂醸造の加筆」と「諏訪市の加筆」のみでもよいくらい。宮坂醸造は新聞記事から雑誌インタビューまで深く掘り下げる価値のある題材だと思った。

 本金酒造などは文献が乏しかった。諏訪五蔵すべてをウィキペディアの記事にすることは意義深いことではあるけれど、無理に取り組まなくてもよかったかもしれない。とはいえこれは結果論であり、編集対象記事を決めるのは難しい。

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4. 個人的な反省

 私は「ウィキペディアとは: 記事を書くことの楽しさ」というテーマで参加者に向けて話す役割がありました。またウィキペディア編集終了後に講評を行う役割がありました。参加者に何かしらのヒントを感じてもらえるような発表がしたかったのですが、今回は準備不足のままイベント当日を迎えてしまい、 参加者にウィキペディアウィキペディアタウンの魅力を伝えきれなかったと思っています。ぐぬぬ。どう改善すればもっとよくなるか教えてください。


 なお、発表スライドはSlide Shareにアップロードしています。今回言いたかったことをひとことで言うと、「それまで紙の文献にしか書かれてなかった地域の情報をウェブに上げることはとても楽しいし意義のある事で、ウェブに上げるためのツールとしてウィキペディアが役に立つかもしれない」ということです。

www.slideshare.net

 

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「没年調査ソンin福井」に参加する

「福井ウィキペディアタウンin足羽山」前日の2018年5月26日(土)、福井県立図書館で「没年調査ソンin福井」に参加しました。主催はウィキペディアタウンと同じく「自主勉強会県庁アゴラ『チーム福井ウィキペディアタウン』」です。

 

www.facebook.com

没年調査ソンVol.2を開催いたします! | ししょまろはんラボ - (参考)2017年11月に京都府立図書館ナレッジベースでししょまろはんが主催した没年調査ソン。

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(写真)この日の福井県立図書館。

 

会場は福井県立図書館の事務室。まずは国立国会図書館関西館佐藤久美子さんが作成した「国立国会図書館の没年調査について」という資料が配布され、チーム福井ウィキペディアタウンの鷲山さんたちから没年調査のやり方や意義についての説明を受ける。

佐藤さんの資料によると、「インターネット公開のためには権利処理が必要」とのこと。“権利処理にはいくつかの手順があるが、没年調査によって保護期間が満了した著作物についてはそのまま利用が可能となる。没年調査によって保護期間が満了していないことが判明した著作物や、没年調査でも没年がわからなかった著作物については、連絡先調査、文化庁長官裁定申請などを行う”とのこと。すこし説明を聞いただけでも作業の目的や意義は伝わってくる。鷲山さんたちの説明そっちのけで作業を開始してしまいました。

 

佐藤さんの資料のほかには、2種類の福井関連著作者リストが配布されました。片方は国立国会図書館が一通りの調査を行った上で没年が判然としなかった著作者のリスト、もう片方は国立国会図書館でも未調査の著作者のリスト。前者は難易度が高いとのことで、私は後者の調査を行っています。配布されたリストは下の図のような感じ。

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(図)著作者リストのイメージ。※本物のリストは取扱注意とのことなので見本です。

 

調査方法はいろいろあるらしい。国立国会図書館デジタルコレクションでの検索、『人物レファレンス事典』等の人物事典での検索、新聞記事データベースでの検索、新聞や雑誌の訃報欄や訃報記事、大学や団体の同窓会名簿など。なお福井新聞はデータベースを公表していないので一般人は利用できません。

 

今回の参加者は約10人。私以外はほぼ全員が図書館司書だったので、難しい調査は日頃から実践を重ねている本職にお任せしました。私は日外アソシエーツの『福井県人物・人材情報リスト』という人物事典を用いて、配布された著作者リストの250人分ほどの照合を行いました。

著作者リストと『福井県人物・人材情報リスト』を見比べ、『福井県人物・人材情報リスト』に「福井太郎」「富山三郎」「長野四郎」が掲載されていないか調べていきます。著作者リストに掲載されている人物のうち、15人に1人くらいは『福井県人物・人材情報リスト』にも掲載されており、最終的には16人の没年を判明させることができました。

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 (写真)没年を判明させられた人物。参加者全員分。

 

没年を判明させられた人物

佐久高士(1902-1980)…福井工業大学教授

寺岡竜含(1910-1994)…光教寺住職

杉原丈夫(1914-1999)…福井大学教授

八木源二郎(1915-1986)…福井山岳会会長

坂本政親(1917-2003)…福井大学名誉教授

池内啓(1920-2015)…福井大学教授

三上一夫(1921-2014)…清水町清水中学校長

原子光生(1922-2010)…時雨窯主宰

鳥海勲(1924-2000)…福井大学教授

瀬川洋(1924-2011)…福井大学教授

嶋田正(1925-2006)…福井大学教授

白崎昭一郎(1927-2014)…福井県武生保健所所長

坪口純朗(1932-2012)…福井リアーベ児童合唱団主宰

長谷川健二(1934-2011)…福井大学教授

稲沢俊一(1941-2003)…福井県教育長

本多義明(1942-2015)…福井大学教授

 

私は高校生などでもできる調査方法を取りましたが、特定の人物に着目して国立国会図書館デジタルコレクションや書籍にあたった参加者が多かったようです。文献調査能力が試されます。全参加者で32人の没年を判明させることができ、うち10人は没後50年経過などで保護期間が満了していたとのこと。この10人の著作物は今後、国立国会図書館がデジタル化資料をインターネット公開できるようになるとのことです。意義のある作業だし調べるのは楽しかった。次はより難易度の高い作業をしてみたいと思いました。

 

夜は福井県立図書館近くのそば屋「かくれ庵」で懇親会。翌日は朝から「福井ウィキペディアタウンin足羽山」です。

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「ウィキペディア・アイランド in 西ノ島」に参加する

ayc.hatenablog.com

海士町中央図書館を訪れる」からの続き。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このブログにおける文章・写真は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンス(CC BY-SA 4.0)の下に提供されています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。地図のみは出典がOpenStreetMap、作者がOpenStreetMap contributorです。

 

 

 「ウィキペディア・アイランド in 西ノ島」の主催者は西ノ島町教育委員会ですが、イベントの企画・運営は横浜にオフィスを構えるアカデミック・リソース・ガイド(ARG)の下吹越香菜さんと李明喜さんが担当しています。  4月14日(土)の伊丹空港隠岐空港便が欠航となり、講師のMiya.mさんは急遽不参加に。15日(日)の「ウィキペディア・アイランド in 西ノ島」に参加するウィキペディアンは私一人となりました。

 14日は海士町を刊行し、島前3島を巡廻している「内航船」で中ノ島(≒海士町)から西ノ島(≒西ノ島町)に渡って「民宿 福来朗」(ふくろう)に泊まりました。着いた時は暗くて見えませんでしたが、この宿から西ノ島町コミュニティ図書館は60mの近距離。泊まった部屋から建物が見えました。2018年夏に開館するこの図書館の建物はすでに完成しており、内装や駐車場の工事中でしょうか。西ノ島町の中心集落である浦郷地区までは300mの距離です。

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(写真)2018年夏に開館する西ノ島町コミュニティ図書館「いかあ屋」。

 

 「ウィキペディア・アイランド in 西ノ島」の会場は西ノ島町中央公民館。公民館はノア(noah)という名称の巨大な複合施設の2階にあり、2階の一部屋が公民館図書室となっていますが、書架は廊下にも並べられています。

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(左)複合施設のノア。(中・右)公民館図書室前の廊下。

 

 今回のスケジュールは以下の通り。本来ならMiya.mさんが「ウィキペディアの説明」や「講評」をする予定であり、私は編集サポートという立場でしたが、Miya.mさんが使うはずだったスライドをいただいて私がウィキペディアの説明をさせてもらいました。なお、「ウィキペディア・アイランド in 西ノ島」は4月と5月の2回連続のプログラムであり、今回はその第1回です。

スケジュール

10:00-10:30 オリエンテーションウィキペディアの説明

10:30-11:30 浦郷のまち歩き

11:30-12:30 昼食

12:30-15:30 調査・編集

15:30-15:50 成果発表・講評

15:50-16:00 クロージング、次回の開催案内

 

 今回のイベントには西ノ島町の住民、西ノ島町役場の職員、西ノ島町にある焼火神社 - Wikipedia(たくひじんじゃ)の宮司である松浦さん、海士町にある島根県立隠岐島前高等学校 - Wikipediaの生徒4人、など10人が参加。公民館図書室の職員、企画運営の香菜さんと李さんもこれに加わっているので実質的には15人くらいのイベントです。

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(左・中)編集ワークショップの会場。(右)準備された飲み物や菓子類。

 

 10時30分からは約1時間のまちあるき。前日はひどい雨であり、当日朝も曇っていましたが、どんどん天候が回復して青空の下を歩くことができました。目的地は「由良比女神社」(ゆらひめじんじゃ)と「浦郷のまちなみ」の2つ。明確なガイド役の方こそいませんでしたが、焼火神社の宮司である松浦さん、西ノ島町役場の職員や公民館図書室の職員などからはいろいろな話を聞くことができました。

 由良比女神社はイカにまつわる伝承が有名なようであり、鳥居の前の海の中に「手づかみでイカを取る島民」の看板があったり、境内の林に巨大なイカの人形が建っていたり、拝殿や石灯籠にイカの姿が彫られていたりします。立派な随身門や土俵もありました。浦郷地区のメインストリートを通って公民館に戻り、「あすか」で昼食。

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(地図)今回のまちあるきルート。出典 : OpenStreetMap。作者 : OpenStreetMap contributor。

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(左)浦郷湾に向かって建つ鳥居。(中)隠岐島前高校の島留学生と香菜さん。(右)初代浦郷村長である今崎半太郎の銅像

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(写真)由良比女神社。式内社隠岐国一宮。(中)拝殿の上部にイカの彫り物を見つけた親子。(右)境内にある土俵。

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(左)神社の石灯篭の基礎にもイカ。(右)マンホールの蓋に書かれたイカ

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(写真)お昼ごはんを食べた「あすか」。

 

 午後は公民館に戻って調査・編集作業。「由良比女神社」を加筆するグループ、「西ノ島町」を加筆するグループの2グループに分かれ、それぞれのグループに香菜さんと李さんが入りました。私はグループに入らずに室内を動き回っていました。

 香菜さんと李さんはこれまでに2回のウィキペディアタウンに参加して編集方法を理解しています。編集ワークショップ中の役割分担がうまくいかず混沌とした状況が生まれるウィキペディアタウンもありますが、今回はイベント全体の企画運営者である香菜さんと李さんが編集作業も主導することで、参加者が自分のやるべきことをスムースに見つけていたような気がします。

 大人の参加者にはほぼ自由に編集を行ってもらっていたようですが、高校生に対してはやるべきことを明確に指示し、慣れているペンとノートで作業を行ってもらったようです。高校生の参加者には自前のノートに文章の下書きを作成してもらい、それを香菜さんと李さんがノートパソコンで打ち込んでいきました。高校生の4人はとても集中して机に向かい、かつワークショップを楽しんでいたように見えます。

  

 3時間の調査・編集作業後には、成果発表と講評の時間。「由良比女神社」の記事には、主に神事や伝承についての記述が加筆されました。神社マニアは全国に多数おり、式内社かつ隠岐国一宮であるこの神社の歴史については、現地を訪れなくとも一定の言及を見つけられると思われます。その一方で、神事や伝承については地域資料をあたらなければ言及を見つけるのが苦しいかもしれません。現地では「神社とイカ」にまつわる話を聞いたこともあり、実際に神社を訪れた者ならではの視点で加筆ができたのではないかと思います。

「西ノ島」の記事には、離島ブーム、交通、名所・旧跡、食文化などについての記述が加筆されました。どれもこれも着眼点がおもしろい。イベント開始前の記事には味気ない歴史しか書かれていませんでしたが、離島ブームの文章でおもしろみの要素が加わりました。離島ブームのほかには「船引運河の開通」もこの島の近現代史のエポックメイキングな出来事だと思われるので、今後の加筆に期待したい。加筆された観光地や食文化の文章を読んでいると、その観光地や料理の写真を検索したくなります。西ノ島の料理を並べた表にはわざわざ写真の掲載欄を作ってあるところがにくらしい。

 

編集対象となった記事

由良比女神社 - Wikipedia - 加筆

西ノ島町 - Wikipedia - 加筆

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(写真)編集ワークショップ中の会場。

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(左)今回準備された文献。(右)高校生の参加者が作成した手書きの原稿。

 

 香菜さんや李さんは2年前から「縁側カフェ」の企画運営を担当しており、月1回の頻度で西ノ島に来ているのだそう。西ノ島の歴史にも詳しく、もはやこの島の住民のようです。イベント後には後醍醐天皇を祭神とする黒木御所に連れて行ってもらいました。丘の上にある黒木御所からは別府港が見える。ちょうど本土の境港港を14時25分に出たフェリーが入港するところでした。

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(左)本土から別府港にやってきたフェリー。(右)別府地区のねこ。

 

海士町中央図書館を訪れる

 2018年4月15日(日)、島根県隠岐西ノ島町で開催された「第14回縁側カフェ ウィキペディア・アイランド in 西ノ島」に参加しました。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
このブログにおける文章・写真は クリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承 4.0 国際 ライセンス(CC BY-SA 4.0)の下に提供されています。著者・撮影者は「Asturio Cantabrio」です。2枚の地図のみは出典がOpenStreetMap、作者がOpenStreetMap contributorです。

 

今回のイベントについて

 2018年夏に「西ノ島町コミュニティ図書館」が開館する島根県隠岐西ノ島町。現在は中央公民館内に図書室が設置されています。西ノ島町コミュニティ図書館が主催、アカデミック・リソース・ガイド(ARG)株式会社が企画運営を担当し、住民向けワークショップとして2017年3月から毎月1回の頻度で「縁側カフェ」が開催されているようです。今回は14回目の縁側カフェであり、まちあるきとウィキペディアの編集を行う「ウィキペディア・アイランド in 西ノ島」という副題が付けられています。

 隠岐ウィキペディアタウンに類似した企画を行いたいということは2017年内から聞いており、他地域とは明らかに異なる要素を採り入れることも聞いていました(これは5月の縁側カフェ)。あくまでも西ノ島の住民向けのワークショップではありますが、企画運営を行っているARGの下吹越香菜さんにアピールしていたおかげで、編集サポートという形で参加させてもらうことができました。

 

 

隠岐を訪れる

今回のスケジュールはこんな感じ。

4月14日(土)

本土の七類港から9時30分発12時40分着の便で海士町の菱浦港へ。海士町を観光後、18時台の便で西ノ島町に移動。西ノ島町民宿 福来朗(ふくろう)に宿泊。香菜さんに教えてもらった宿。電話予約。

4月15日(日)

西ノ島町で「ウィキペディア・アイランド in 西ノ島」。懇親会に参加後、21時台の便で海士町に移動。海士町お泊り処なかむらに宿泊。Booking.comで予約。

4月16日(月)

朝に海士町を散策後、海士町の菱浦港から9時50分発13時20分着の便で本土の境港港へ。

 

 本土から隠岐を訪れる際には空路(伊丹空港隠岐空港)と海路(松江/境港→島前/島後)があります。今回は海路を使いました。本土側の発着港は松江市七類港〔しちるいこう〕か境港市の境港港。隠岐側の発着港は隠岐の島町の西郷港、西ノ島町別府港海士町〔あまちょう〕の菱浦港、知夫村〔ちぶむら〕の来居港〔くりいこう〕です。

 新幹線・特急・バスを乗り継いで松江市七類港まで行き、七類港から隠岐汽船のフェリーで西ノ島に渡りました。松江市七類港から海士町の菱浦港まではフェリーで2時間50分。フェリーのほかに高速船も運行されていますが、いずれにしても一日数往復しかないため、今回のイベントに参加するために前日入りは必須でした。

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(左地図)隠岐諸島4島の位置関係。(右地図)愛知県から隠岐諸島の移動経路。

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(写真)島根県立図書館。菊竹清訓建築設計事務所。1968年竣工。

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(左)私設図書館曽田文庫。(中)松江市八束公民館図書コーナー。(右)境港市立図書館。

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(左)米子市公会堂。1958年竣工。(中)山陰歴史館。1930年竣工。(右)米子市立図書館。

 

海士町中央図書館を訪れる

 土曜日午前中の便で本土から隠岐へ。9時30分に七類港を出たフェリーは12時40分に菱浦港に着きましたが、海士町がある中ノ島に降り立つと雨が降っており、レンタサイクルで島をまわるというスケジュールがいきなり崩れてしまいます。菱浦港で海中展望船あまんぼうに乗船してから、路線バスで海士町中心部に移動し、海士町中央図書館でゆったりと過ごしました。

 

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(左)海中展望船あまんぼうの船内。(中)海中展望船で訪れた三郎岩。(右)本土行きのフェリー。

 

 どうせ屋外を歩けないので、図書館では「海士町中央図書館」そのものについて調べてみました。図書館内では海士町 Free Wi-Fiが使え、電源を使ってノートパソコンを開くこともできます。愛知県には54の自治体がありますが、Wi-Fiも電源も使える図書館(≒自治体)って両手で数えられるほどだと思います。海士町の方が進んでる。

 入口にいちばん近い書架には、海士町に関する本や雑誌や行政資料、海士町が紹介されている雑誌などが集められています。掲示板には海士町隠岐に関する新聞記事の切り抜きが貼ってありました。海士町中央図書館に関する資料を集めたファイルボックスもありました。気軽に本土に行くことができない海士町の住民にとって、海士町が外部からどう見られているか図書館で理解できる意味は大きいのではないかと思います。

 その他にも、コピー・レファレンスサービス・相互貸借などについての説明が目につく場所にあったり、「あまマーレ」やクラブ活動のチラシが貼ってある掲示板があったり、窓枠に本が表紙を見せて並べてあったり、ポットや紙コップやドリップパックが置いてあるセルフのカフェコーナーがあったりと、図書館が「生きている」「動いている」と感じさせられる館内でした。一つ一つの工夫はどこか別の図書館と同じかもしれないけれど、最低70kmも離れた本土の図書館を視察しに行くことは容易ではないはずです。ここはほんとうに離島の図書館なのでしょうか。

 より大きな部分では、児童書のエリアにはこたつがあるし、図書館部分は木造ということで温かみ(陳腐な表現)も感じます。海士町が推進している「島まるごと図書館構想」というプロジェクト名から、中央図書館の蔵書数や設備は貧弱なのだろうと想像していましたが、まったく見当違いでした。

"図書館のない島"というハンディキャップを逆に活かし、中央図書館と島の学校(保育園~高校)を中心に地区公民館や港、診療所などの人が集まる場所を「図書分館」と位置づけ、それらをネットワーク化することで、島全体を一つの『図書館』とする構想です。

「島まるごと」図書館構想 (注)2007年当時は"図書館のない島"だった。

 

 

 図書館からのお知らせの掲示には、写真撮影が可能であることも記されています。念のためにカウンターにいた司書のHさんに撮影の可否を聞いてから撮っていると、図書館系の雑誌などでよく名前を目にする磯谷さんに話しかけられました。2時間半も図書館内にいたうえに数十枚も写真を撮り、地域資料をひたすらめくってはパソコンに打ち込んでいたので怪しい人物に見えたのでしょう。図書館の事業年報をコピーしようとしたら、「視察者には差し上げている」ということで冊子のままもらえました。

 海士町中央図書館の写真については以下のURLにてCC BY-SA 4.0で提供。

Category:Ama Town Central Library - Wikimedia Commons

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(写真)海士町中央図書館の館内。

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(左)窓際の席。(右)寄贈本コーナー。

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(左)児童書エリアのこたつ。(右)公民館内のロビー。(右)衣類のリサイクルコーナー。

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(左)ゲームの貸出。(中)本の探し方・楽しみ方。(右)小説。

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(左)Wi-Fi & 電源使用可。(中)入口にもっとも近い書架。(右)海士町に関する資料。

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(左)セルフカフェコーナー。(中)雑誌や新着本。(右)掲示板。

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(左)図書館からのお知らせ。(右)入口から見た館内。

 

 

 海士町中央図書館を訪れた土曜日は外を歩くのがつらいほどの雨が降っていましたが、日曜日の「ウィキペディア・アイランド in 西ノ島」を挟んで、月曜日の朝はよい天気でした。海士町役場や中央公民館の北側には田んぼが広がっており、鉄筋コンクリート造2階建の中央公民館に木造平屋建の図書館が増築されていることがよくわかります。

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(左)海士町役場。(右)裏手に図書館が増築されている海士町中央公民館。

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(写真)中央左にある赤屋根の木造建築が図書館。

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(左)海士町後鳥羽院資料館。(中)隠岐神社。(右)海士町の菱浦港。

 

 

つづきます。

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